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中沢けいコラム「豆の葉」
   
 

前兆現象

2009年02月08日(日)

 伊藤さん、どうもありがとう! おもしろいと言っていただいたので、つい調子に乗っちゃいました。おかげさまで採点も卒業面接も入試もなんとかこなしました。

 それでみんなに前兆はなかったのかと聞かれるたのですが、これがあったのです。自分でこのコラムにも書いていました。歯槽膿漏の痛みです。

「心臓疾患は胸痛に現われるだけでなく、下顎や肩の痛みとして現われることがあります」とちゃんと家庭の医学に書いてあるのは前から知っていたのです。きっと同じ本に「鍋蓋を押し付けられたような痛み」という表現もあったにちがいないのです。心臓神経症をやった頃に、何度も心臓疾患の項目を読みました。でも、そんなへんな比喩を覚えていたのは意外でした。しかも咄嗟の時に口から飛び出してくるとは。

 で、歯槽膿漏ですが、もともと右下の歯茎には、治療しにくい病巣がひとつあります。歯槽膿漏の痛みが出たときに歯医者さんでその部位のレントゲンをとってもらいました。でも、そこはなんでもなかったのです。歯医者さんは、丁寧に上の歯と下の歯のかみ合わせを直してくれました。ずっと前からお世話になったいる歯医者さんで、今回は息子さんのほう(若い先生)に初めて見てもらいました。その丁寧な治療と痛みの間に何か乖離があるというか、溝のようなものがありました。
 それが「心臓疾患は下顎や肩に痛みが現われる」ということだったのです。

 歯槽膿漏の痛みが考えられたものが、ひと段落して、それから年末に熱をだしたのも、ここに書いたとおりです。新聞連載が終わると、たいてい熱を出したりインフルエンザにかかったりしますが、今回は終わらないうちに歯槽膿漏や発熱が出て、これじゃあ、済まないだとうあという予感はありました。
 左目が曇ってきたこともあって、連載が終わったら眼科と脳外科に行こうと思っていました。我が家は代々、脳血栓をやっているので、心臓よりも脳血栓のほうを疑っていました。医者嫌いですが、それでも医者に行こうと思っていたのは、たぶん最大の予兆です。

ふつうなら忘れてしまうようなことも、あとから遡って文脈に結びつけられて物語になるということがあります。ふだんはあまり見ないようなテレビの医学番組をぼんやり見ていたのも、そのひとつ。これは前兆ではありませんが「虫の知らせ」かもしれません。もしその番組を見ていなければ、医師の手術の説明をスムーズに理解できたかどうかわかりません。それから、1月の初めに乗ったタクシーの運転手さんが、糖尿病で「糖尿病は専門医に見てもらったほうがいいです。このごろはすごく研究が進みだしている分野ですから」と話していたのもなんだか「虫の知らせ」みたいな気がしてきました。タクシーはよく利用しますが、運転手さんが糖尿病だなんて言い出したのは初めてです。

 私が入院した順天堂大学医院(お薬袋を見たら、病院ではなくて医院の表示がありました)の隣りは東京医科鹿大学病院ですが、この医科歯科大学病院のある場所に獅子文六が住んでいたことがあるようです。あるようですというのは、獅子文六が70歳過ぎに読売新聞に連載した「但馬太郎治伝」にこの場所のことが出てきくるからです。「但馬太郎治伝」は小説ですから、この場所に獅子文六が住み、その前のは但馬太郎治のモデルになったバロン薩摩が住んでいたというのはフィクションかもしれません。ですから「あるようです」なのです。それにしても70歳を超えての新聞連載は命がけだったろうなあと思いました。

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