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中沢けいコラム「豆の葉」
   
 

このごろ食べたもの

2007年04月29日(日)

「あ、そのブッシュを残しておいてね」
 午前様、朝帰りを通り越して昼過ぎに家に戻った娘があわただしくまた出かけて行くときに、台所のテーブルの上をさしてそう言いました。
「ブッシュ?はて?ブッシュとは何?」
「ほら、そのブッシュ大統領が喉に詰まらせて死にそうになったパン」
 ははん、ビアプリツェルのことか。イラク戦争開始前の話ですから、もうずいぶん前のことになりますが、ブッシュ大統領がプリツェルを喉に詰まらせて気絶するという出来事がありました。ご記憶の方もいらっしゃるのではないでしょうか?娘はそれ以来、ビアプリツェルと言わずに「ブッシュ」と呼んでいるそうです。塩味の乾パンで、「め」の字みたいな形をしています。ブッシュ大統領がこれを喉に詰まらせたときは、イラク戦争反対派が、世界中から、これをホワイトハウスに送りつけたとのことでした。

 大阪に行ってきました。新聞小説のために堺の街を半日ほど歩き回ってきました。取材というよりの、まあ、歩き回るだけでしたが。で、大阪土産は例によって「昆布」です。なんで例によってなのかと言えば「昆布は大阪が旨い」という偏見を私が持っているからです。なんだかそんな気がしてます。新幹線に乗るために出た新大阪駅で昆布詰め合わせを買ったのですが、「くぎ煮」も発見しました。「新物 タッパー入り」の文句が。
 以前、歌人の道浦母都子さんに聞いた話では、この「くぎ煮」の季節になると、「くぎ煮」にする小魚を生協でも予約をとって販売するそうです。で、それどれの家で甘辛く「くぎ煮」にして、タッパーでよその家にもおすそわけするという習慣があるそうです。
 だから「タッパー入り」に意味があるというわけ。
 「のぞみ」で東京に戻り、そのまま法政大学へ。助手のF女史は「昆布としいたけは親の敵というくらい嫌い」と判って、ちょっとがっかりしているところへ、昆布大好き女を自認するSさんと小魚大好き男のM君がやってきて、なぜかお弁当を食べ始めました。
 そういえば、今年春、卒業したもうひとりのM君が文章表現の先生を唸らせた(感心させた)のも「くぎ煮」の話でした。

 大阪へ行く朝のことに話は遡りますが、家を出る直前に宅急便が届きました。かなり重量のある段ボール箱で「はて、何だろう?」とあけてみると、これがたけのこ、たけのこ、たけのこ、大小合わせて、10本もありました。「ややや!」です。
 熊本で私が「たけのこ、たけのこ、たけのこ」と騒いでいたのを熊本近代文学館の馬場さんが覚えていてくれて天草に住んでいるご両親から送っていただいた物でした。
 「ややや、これは大変だ」
 せっかくの掘りたてのたけのこです。早くゆでなくては!しかし、ああ、どうしよう、新幹線に乗らなくちゃと騒いだ挙句に、大きな物二本は近所のとんかつ屋さんにもらってもらうことにしました。で、息子にとんかつ屋さんへのお使いを頼んで、新幹線に飛び乗りました。
 残ったたけのこは、翌日の夜、大阪から帰って(法政大学経由です)ちゃんとゆでました。で、おいしくいただきました。鮮度が良いので、ものすごく歯ざわりの良いたけのこでした。
「たけのこのおいしさが判らないなんて、天罰がくだるぞ!」
 というのがうちの娘の意見です。
 でもまだお礼状を書いていません。馬場さんどうもありがとうございます。ご両親によろしく言っておいて下さい。今夜、かならずお礼状を書きます。ほんとにお礼も言わないうちにおいしく食べてしまってごめんなさい。

 池袋の東武デパートにある一保堂に新茶を買いにいったら、新茶が出るのはゴールデンウィークが終わった頃です」と言われました。一保堂のお茶は宇治でも京都に近いほう、つまり北(店の人は上と言ってましたが)のほうの露地で作っているので、出回るのが遅いのだという説明でした。遅いというよりもそのほうが余り前なのでしょうけれども。八十八夜までもうすぐですから。

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