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中沢けいコラム「豆の葉」
   
 

身体の芯のとろりとした眠り

2006年06月09日(金)

 身体の芯にとろりとした眠りがある。片栗粉を溶いて作った餡か、葛餅みたいな眠りの塊。それがとろりとろと溶けている感じが最初にしたのは、昨日、おすしを食べて地下鉄に乗ったときだった。

「長い間、ごくろさまでした」という声がどこからともなく聞こえて、それは自分が誰かに言っているのか、誰かから自分に言われているのがよく解らなかった。まるで遠いところで輝いている電光掲示板の文字をぼんやりと読んでいるように聞こえてくる声だった。

 とろんと眠くなる。今日、学校へ出てゼミの時間に「先生!」と言われてはっと目を覚ます。たぶん、寝ていたのだ。授業中。なんだか水羊羹になったみたいな眠気で、ゼミで発表する学生の声は聞こえていたんだけけれども、それが水羊羹を来るんでいる半透明な葛の膜の向こうから聞こえてくる感じだった。

 地下鉄の中で聞いた「長い間、ごくろさまでした」の声が葛引きの餡みたいになって身体の芯で固まって、それからまた日常的な時間の中でとろりとろりと溶けている感じ。ほんとに遠くの電光掲示板でも眺めるように「長い間、ごくろさまでした」という声がとろりとろりと溶けて行く。

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