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「アンチヘイト・ダイアローグ」について
2015年09月10日(木)
ヘイトスピーチを繰り返す排外主義者(レイシスト)に抗議する行動にかかわっていなければ、安倍政権の特異なことに気づくのが遅れたかもしれません。どうかすると現在でも、それほど特異な政権だとは感じていなかったかもしれません。排外主義者(レイシスト)は歴史修正主義者と繋がりが濃く、歴史修正主義者は安倍政権の重要な支持者に一角をなしています。
安保法制関連法案の強行採決が近づいているという報道があります。これだけ反対しても数の力で押し切ろうとする一方で、8月6日に審議に入った人種差別撤廃基本法はまだ審議のめどがたたず国会会期末までの成立が危ぶまれています。与野党ともに人種差別撤廃基本法に反対する党はありません。が、実際には排外主義者、歴史修正主義者を支持者に持つ自民とが審議を遅らせているのではないでしょうか。
よくヘイトスピーチ、とくに韓国を対象にしたそれがなぜこんなに激化したのかと尋ねられます。2001年の従軍慰安婦問題を対象にした「模擬国際戦犯法廷」に取材したNHK「戦争をどう裁くか 第2夜 問われる戦時性暴力」の番組改変問題で、安倍晋三氏と歴史修正主義者たちが結びつくようになった結果として排外主義者が大手を振ってヘイトスピーチデモと繰り返すようになったといういきさつは見逃すことができないと考えるに至りました。歴史修正主義者は東京裁判の受け入れを拒否しています。従軍慰安婦問題と東京裁判はいずれも「事後法」的な性格を持つという点で共通している要素があります。それはまた、戦争の勝者による敗者の裁きをどう考えるかという主題を持っています。そういう流はこの対談集を作っている時にはまだ見えていませんでした。そのような流れを見出すためにも、この対談集での対話は私にとって貴重なものでした。
ヘイトスピーチに抗議することを軸として、現在の日本の政治、経済、文化の広がりの中から「言葉を見つけるための旅」をするかのように8人の皆さんとお話をさせていただきました。 中島京子さん。韓国の作家、姜英叔さんは共通の友人です。中国現代文学の翻訳も手がています。平野啓一郎さん。日韓中3ヶ国の文学者会議でシャープな発言をされていました。今現在の私たちが住む世界への興味と感心の深さにいつも感嘆させられます。星野智幸さん。新しい感情世界を切り開く力に満ちた作品を書くのにどうしてそんなに優しいのか不思議になる人です。
3人の作家とまずお話をさせていただいたのは、現在の日本を覆う歴史修正主義的な戦後否定の言葉が、どこか言葉というものの深い根のところで文学的な問題提起をしていると直感していたためです。これはいずれ「小川国夫・島尾敏雄・吉田健一の『時間』を巡る戦い」という紀行文のスタイルをとった評論を書くつもりでいることと結びついています。
政治学者の中野晃一さん。御著書「右傾化する日本政治」(岩波新書)はよく読まれています。社会学者の明戸隆浩さんはエリック・ブライシュ「ヘイトスピーチ 表現の自由はどこまで認められるか」(明石書店)の翻訳家であり、この本には日本のヘイトスピーチの現状も考察されています。この本の表紙のおじさんの顔があんまり怖いので、実際に明戸さんにお会いするまでは、なんだかとんでもない大男が出てきそうな気がしていました。エコノミストの向山英彦さん。御著書に「東アジア経済統合への道」(日本評論社)があります。経済に詳しい方にどうしても加わっていただきたく、対談のお願いしました。もっとも衝撃的なお話を伺いました。なぜかはまた改めて書きます。弁護士の上瀧浩子さん。「♯鶴橋安寧 アンチ・ヘイト・クロニクル」(影書房)の著者である李信恵さんの名誉棄損や業務妨害の民事裁判の弁護を手がけています。2月の寒い晩に、お喋りをたくさんしながらお蕎麦をごちそうになったのが忘れられません。聞き上手というのは上瀧さんのためにあるような言葉です。社会運動家の泥憲和さん。「安倍首相から『日本を取り戻せ』」(かもがわ出版)はよく読まれています。社会運動家とお呼びしてもいいかどうか迷いました。元自衛官で、軍事知識は豊富でユーモアに富んだお話ぶり。泥さんに肩書は不要で、泥さんはいつも泥さんなんだなあと感嘆しています。
現実を見る眼を持ち、それを言葉で語ることができる皆さんとじっくりお話をさせていただきました。どうかすると煮詰まってしまう現状を、未来の方向へ広げて行くようなお話ができました。本書を予約していただいた方から「人選がいいね」と言っていただきました。
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