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詩歌と園芸と庭仕事
2011年04月23日(土)
宗教とか信仰という話になると、仏教やキリスト教あるいは神道という宗教か、もしくは、民俗学的な民間信仰のことがテーマになっています。で、そういう宗教のイメージを持っている人に日本人の宗教心、信仰心は俳句や短歌、それに現代詩も含めて詩歌と、庭いじりや鉢植えを作る園芸の中に隠れているのだと言うときっとへんな顔をされるか、もしくは、激しい罵倒をされるか、そんなことがおきそうです。なにかを論議しようとした時、相手を激しく罵倒して声の大きさで勝つという習慣は、どうも昭和20年代の荒んだ世相の中から生まれてきたらしいということをなんとなく掴でいますが、それはまた何か機会があったら書くことにします。
それで、詩歌と園芸と庭仕事の中に日本人の信仰心や宗教心が隠れているという話ですが、宗教史などにつなげようとすれば、繋がらないこともありません。日本に大きな影響を与えた儒教は、祖先信仰を大事にしていますが、祖先の魂を慰めるものは歌です。死者の魂を慰めるものもまた歌です。また、中国で発達した仏教、禅宗では歌(この場合は漢詩ですが)を大事にします。禅寺では膨大な漢詩が書かれています。禅に興味を持っていた夏目漱石も漢詩を書き、俳句を詠んでいます。それから枯山水などの庭は禅寺によく見られることは衆知されています。枯山水の庭から盆景、盆栽までの変化はそう遠くないものです。盆栽から鉢植えの園芸趣味も、ごく近いところにあるでしょう。江戸時代に入ると園芸趣味は、庶民にまで広がり、変わった花を咲かせる朝顔などに夢中になったそうです。
今の中村勘三郎、つまり以前の勘九朗さんですが、その中村勘三郎の本を読んでいたら、舞台の上でお父さんから「その朝顔の鉢植えはどこで買ったきた」とざんざん聞かれて困ったという話が出てきました。芝居の筋とは関係がないアドリブの質問だそうです。で、適当に答えるとお父さんは怒り出す。芝居の進行はストップしてしまう。これが毎日続いたという、ちょっと想像してみるとおもしろいお話ですが、芝居の中には出てこないけれども、背景になっている江戸の町の習俗をちゃんと知っていれば答えられる質問だというようなお話だったと記憶しています。結局、勘九朗さんは誰かベテランの俳優さんのところへ行って答えを教えてもらったということでした。江戸の町では、朝顔ならこれこれの場所の市というふうに商う場所が決まっていたようです。
そんなあれやこれやを調べて論文など書こうとしたら、どえらいことになるので、それは止めて、日本人の信仰心は詩歌と園芸と庭仕事の中に隠れているという話に戻します。汎神的な信仰心と言うのが、詩歌の中に隠れていると感じたのも、園芸と庭仕事の中に溶け込んでいると感じたのも、考えてみると、すごく子どもの頃だったのではないかと思います。感じているけれども、言えない、感じているけれども認識できないという感じ方です。寺社のお縁日の眺めとか、お正月やお盆の支度のときなどに、子ども心に感じたかそけきもの。大学生くらいになると、それを意識はできるようになりましたが、文化史などをやった偉い先生に、馬鹿にされたら最後、もう見えなくなってしまう程度のか細い意識の仕方でした。誰がどんなふうに怒鳴りだしても馬鹿にしても、あまり揺らがないなあという意識をしたのは、四季を歌う月並みな俳句や、四季の章立てに分かれている古今集をよくよく読んだ20代の後半でした。
自然の変化を歌に詠むことによって、歪みがちな時間意識を整えているのではないかと、まず最初にそう感じました。そういう感じ方や考え方も深めたり磨いたりすることができればよかったのですけど、よほど注意深く話さないと、通俗的な楽天主義と勘違いされしまいますから、残念ですけど、人に自分の考えを話して感じ方や考え方を深めたり磨いたりはできませんでした。
詩歌と園芸と庭仕事の中に日本人の信仰心は、薄く広く、しかし、時には強い直感をもたらす形で隠れていると、このごろはやや確信めいた考えを持ち始めています。学問の言葉で語ってしまったとたんに死んでしまうような、生きている信仰心。西洋哲学の翻訳語で語ると色あせてつまらないもののように見えてしまうけれども、詩歌の中に溶け込ませたとたんに、息を吹き返す信仰心、そのように見ています。古事記の冒頭に、大八島はくらげのように漂っていたという意味の記述があります。それを、70年代に中等教育を受けた私は、神話が非科学的であることの証拠だと教えられました。でも、あれは地球のプレートの動きの歌だったのではないか?と毎日、地震に揺さぶられているうちに、そう思えてきました。まだ、まとまりのない考えですが、子ども心に感じてきたことが、だんだん、シオコウロコウロとまとまりに生り始めているようです。
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