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中沢けいコラム「豆の葉」
   
 

災い転じて………

2011年04月26日(火)



 外濠の桜がすっかり花を散らせて若葉になりました。靖国通りを歩いていたら、福島、三春の滝桜の子孫だという枝垂桜を見つけました。この桜ももう葉桜になっていました。

 「災い転じて」のあとは「福となる」と続くのですが、福島の原発事故は一向に収束の気配はなく、少し様子が変わったなと思うのは、幾らか事故処理の見通しがついてきたくらいのところでしょうか。目に見えない事故の広がりをどう感じたら良いのかわからないという話をよくします。推移を見守るしかなく、まだまだ「災い転じて」のあとを、常識的に「福となす」とは繋げ難いものを感じます。

 だから、この先のことを言うのはまだ早いかもしれません。しかし、日本のエネルギー政策は人類のために原発異存から新エネルギーへと転換して欲しいなあと願います。日本のためではなく、世界のために。日本人のためではなく人類のために、いや、人類のためにではなく地球上のありとあらゆる生物、生きとし生きるもののために脱原発のエネルギー政策をとって欲しいものです。そのために、日本へ「人、物、金」を集めてもらいたい。「人、物、金」という三つは経済政策の話によく出てくる表現です。
 「人」はこの場合、脱原発のエネルギー研究や放射線医学、省エネ型の技術などなど、さまざまな分野の英知を日本に集めればいいのです。理系だけではなく、心理学や社会学などの分野の人も必要です。メディア研究、映画製作、ジャーナリズムの分野でも、いろいろと知恵を出してもらう必要があるでしょう。研究者、留学生、商社マン、ジャーナリスト、そのほかにも日本に来たい人にはどんどん来てもらう。
 「物」は脱原発エネルギーを研究開発するための施設、放射性廃棄物の処理技術開発のための施設、放射線障害の予防と治療のための施設などを作ることですが、零から始めるというわけではありません。日本にはもうそうした「物」はすでにあるはずですから、それをさらに充実させることは可能なのではないでしょうか。
 最後に「金」。お金が足りなければ集めればいいのです。どこの家でもお金が足りないときには、出費を抑えるか、もしくはよりたくさん稼ぐかの二つのやり方で対応します。が、もうひとつの道は「借りる」があります。さらに未来のために「集める」という方法もあります。「出費を抑える」「稼ぎをふやす」「借りる」「集める」のうち、脱原発社会を作るのに良い方法は「集める」でしょう。近代社会はこのお金を「集める」という方法を発達させてきました。世の中を変えて行くための、未来のためのお金を「集める」のです。人類のため、地球のための研究開発にお金を出す人はもう現れています。お金を「集める」ための仕組みを整えるのは政治の力です。

 人を集め、物を充実させ、お金を集めれれば、きっと「災い転じて……」のあとに「オンリー・ワンの日本」を作ることができるのではないでしょうか。世界のために役立つことができるオンリー・ワンなら大歓迎です。そういうビジョンを持った若い政治家に登場してもらいたいなあという夢想でした。人は自分が生きてゆく時代のためにしか働けないのです。未来は未来を生きる人が作り出すべきです。この夢想は、夢物語ではなく、今ここの現実に対応するための理想です。日本にしかできないことがあるはずです。



 八重桜が若葉の中に埋もれるように咲いていました。写真を撮りながらも、時間の流れをうまく感じ取れていない自分がそこにいることを意識しました。3月から4月というのは、なんでもないときでも、時間の流れに乗り損ねてしまうことが多い季節ですが、今年はいつもにもまして、それを感じています。地震と津波だけなら「ああ、春になった」と季候が良くなったことをうれしく感じられるのでしょうけれども、原発事故の推移を見ながら息を詰めているのは私だけではないでしょう。何も言わないけれどもひっそりと、原発事故の成り行きを見ている人が大勢いることでしょう。

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