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伊藤製作所「豆畑支所」
   
 

センダン

2012年05月10日(木)

トメの学校から家に帰る道すじで、すごい花が咲いている木がある。花は白と紫が二重で、細い十字に見える(でも4片ではなく、5片だろうとあたしにはわかっていた)それが木全体をびっしりとおおっている。そしてその花におおわれた木全体を、照葉樹みたいなぴかぴかした緑の葉が垂れさがるようにびっしりおおっている。木のかたちはまるみを帯びたふつうの木。とくべつ、どうという特徴のないふつうの木。で、あんまりきれいなので、通るたびに速度をゆるめて感嘆しておったが、とうとうきのう、車をとめて、トメに花と葉を少しずつちぎり取ってくるように命じた。これがいい子で、そんな恥ずかしいことを、親に言われるままにするのである。で、確信したのだ。これはセンダン。ムクロジ目のセンダン科のセンダン。漢字で書くと栴檀。熊本の坪井川の河原にいくらでも自生しておる。成長が早いから、20年ほど前にできた遊水池に生えだしたセンダンが、もう大木になって陰をつくっておる。河原の自生した木だけじゃない、いかにも植えられたふうの公園にも処処にある。冬には葉が落ちて黄色い実が垂れ下がる。それを見て、長い間、これはハゼノキと思いこんでいた。ハゼノキは、肥後藩が奨励したという蝋をとる木なのである。たしか大津から阿蘇に行く旧街道沿いに植えられていたはずだ。昔、見た、見て、あれはハゼノキと教えられた覚えがある。で、このセンダンがセンダンであるとわかったのは数年前だ。母が死んで、5月に帰って、しみじみと河原を歩いて確認していったのだった。ハゼノキとセンダン、実はそっくりなのだが、花が違う。センダンははなやかで美しいが、ハゼノキのは目立たない。そしてこのたび、太平洋のこっち側で、トメが取ってきたのはいかにもセンダンで、すっきりした細身の5片で、くっきりとした紫と白で、えもいわれぬ芳香があった。すずやかな、風のなかに鳴りひびくような、芳香であった。センダンは双葉よりかんばしというあのセンダンは、じつはこのセンダンではなくて白檀のことだ、とwikiにも、ほかのサイトの説明にも書いてある。これだけの芳香があって、まだ足りないのかボケと空にむかってののしりたい感じ。今、センダンは、坪井川の河原のあそことあそこで、いっぱいに花を咲かせている。今回カリフォルニアに帰ったときにはまだ咲いてなかった。でも今咲いてるはずだ。見なくてもよくわかる。かなり咲いていたノイバラは、もう爛熟しきって河原じゅうが天花粉をはたいたみたいに白くなっているはずだ。

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