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中沢けいコラム「豆の葉」
   
 

年金と相続税

2010年08月10日(火)

 角りわ子さんがソウルで展覧会を開いたらたいそうおもしろかったそうで、パリでの展覧会の話も聞いた。次はニュー・ヨークで個展を開きたいと言っていた。姜英淑さんは、アイオワ大学で、今度、直木賞をとった中島京子さんと知り合ったとメールに書いてきてくれた。世界はだんだん狭くなっているような気もする。

 で、角さんと晩御飯を食べたときの話題は111歳のミイラになったお爺さんの話。気が弱くって、ご飯のときにミイラの話をするだけでも、ちょっと怖くなるって行ったら「ほんとに?」と呆れられた。長生きのはずのお祖父さんがほんとうは30年前に死んでいたのを、家に中にそのままにしていたという事件は韓国でも大々的に報道されたそうだ。

「あれって年金が目的じゃなくって、相続がこじれたか、相続税が払えなかったかじゃないのかしら」
 角さんにそう言ってみた。
「そうかもしれない」
「だってさ」
 気持ち悪いと言いながら、どんどん想像にのめり込む私。30年前って言えば、新聞には年中、長男の嫁だという人が、年寄りを看取ったのに、相続の権利はないって悩みが載っていた頃だ。気の毒な人になると、結婚してすぐに夫は戦死して、それからずっと婚家の親の面倒を見たのに、財産相続からは外されたって人もいた。
「明治生まれの両親に、大正末から昭和の初め生まれの子どもってのが30年前の親子でしょ」
 それで、法律は終戦後にアメリカが持ち込んだ税制で出来ていて、アメリカ本国よりもずっと革新的な形態になっているから、へんてこなことが起きるわけと、一度回り出した頭はどんどん回る。年金受け取りが目的じゃなくって、相続が問題だったと考えると、報道されていることの辻褄が合ってくる。
「それ、小説に書いたらいいのに」
「水上勉の飢餓海峡みたいなやつ?」
「そうそう」
「ううん。そういうのあんまりうまくないから
「桐野夏生さんだった書けるかしら」
「うん。たぶん。たぶん。思いっきり怖いのが書けると思う。私だと、気の弱い息子が、相続のけりがつけられずに、のびのびにしているうちに言い出せなくなったとか、頑固なお祖父さんが武田信玄ばりに、死して三年はこれを明かすなと遺言したとか、なんだ、間抜けな話になっちゃいそうな気がする」
 なんて話になっちゃいました。

 同じ事件の話題を別の人ともしたのだけれども、それも思い出してみるとご飯のときでしたが、その時は、頭の中にそんなふうに、明治、大正、昭和という具合に時間がくっきりと線を描きませんでした。角さんのペースというか、身体に蓄えている時間間隔が、年金じゃなくって相続だって言う想像を私から引き出したみたいです。だから、会話っておもしろい。

 相続税については、大阪のタクシーの運転手さんから「お屋敷がみんな細かい家やマンションになってます、相続税がよう払えんから」と言う話を聞いたこともあります。それから、住宅地の乱開発も、もとはと言えば相続税の支払いのために土地が売り払われるからだとも聞きました。画家の遺族が、相続税のために絵を売って市場価値を下げるよりも燃やしたほうがマシだって言って実際、絵を燃やしちゃったという話も聞きました。

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