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中沢けいコラム「豆の葉」
   
 

爪のきり方

2004年12月15日(水)

 館山に住んでいたころ、ピアノを習っていました。ピアノの先生は苗字から類推するに、むかしの水軍いや海賊の末裔ではないかというお家の人でした。

 広いお屋敷で、敷地の中に5軒も家が建っていました。お屋敷の周囲には竹やぶとやぶ椿の林がありました。春はピアノのレッスンに行くたびに、竹やぶの筍がどのくらい背が伸びたかを確かめに行くのが楽しみでした。今頃の季節はやぶ椿の木に登って、蜂と一緒に花の蜜を吸うのが楽しみです。あるとき、椿の花のなかに蜂が入っていて、ちくりと刺されてしまいました。驚いたついでに、木から転げ落ちたのを、お手伝いさんが見ていて、助けてくれました。

 このピアノの先生はレッスンの途中でぱっと手を掴まれて「こんなに爪が伸びていたらピアノは弾けません」と言われました。以来、私の爪の切り方は極端なくらいに短く切るようになりました。もっとも、手を掴まれてから、数ヵ月後のレッスンでは「指から血が出るほど短く切らなくてもいいのに」とも言われたのですが、なぜか、最初のぱっと手を掴まれた瞬間の印象のほうが深いのです。

 今でも爪は短く切っていますが、マニュキュアを塗ると、あんまり爪が短すぎて、笑っちゃいそうな感じになっています。

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