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中沢けいコラム「豆の葉」
   
 

とぼけた秋のポケット

2008年11月02日(日)

 11月をまたずに東京には木枯らしが吹いてしまいました。10月は韓国での韓日中3カ国の文学フォーラムへの出席から始まって、週末ごとにソウル、春川、大阪、沖縄、大阪と動いてました。

 なんだかとぼけた秋でした。いつまでも蒸し暑く、夏の終わりもなければ、秋の始まりもない。そういう秋でした。そんな10月の終わりに、一日だけ、ぽつんと良く晴れて空気が澄んだ日がありました。その日、ひょんなことから三浦半島を南下して葉山まで下りました。

 とぼけた秋がポケットの中からそっと出してくれた上天気。日景茶屋がうみっぷちに出しているレストランのテラスで午後の海を眺めていました。凪いだ海にたつ小波は、潮目の違うところで、方向を変え、幾つもの潮目が小高い山に囲まれた湾の中にあることが見ていてわかりました。

 秋の海は、もちろん夏の海ほどではありませんが、けっこう賑やかでした。鰯の生簀に、漁船。趣味で釣りをする人のモーターボート。繋留されているヨット。ウィンドサーフィンの帆。などなど。ウィンドサーフィンをしていた人が、帆を降ろしてサーフィンの板とゴムの櫂だけで海の上をすいすいと渡っていました。まるで忍者。それにしても、ゴム製の櫂一本でよくあれだけ進むものだと感心しました。さすがに陸地が近づくとくたびれた様子で、櫂を漕ぐ手を止めて、海にぷかりぷかりと浮かんでいました。

 この眺めもとぼけた秋がポケットから出してくれたとっておきの景色のひとつでした。

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