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マッチを擦る
2007年02月04日(日)
まだ終電前だというのに、池袋のタクシー乗り場が混雑していたのは、東武東上線が不通になっていたためらしいのですが、その混雑するタクシー乗り場で、一人の男が車の前に立ちはだかって「運転手は窓を開けろ」と叫んでいました。仕立てのよさそうな上着の下から真っ白なワイシャツが覗いていましたが、ネクタイはポケットに突っ込んでいました。30代半ばというところでしょうか。男が前に立ちはだかっているので、タクシーは進むことが出来ません。乗り場の行列はだんだん長くなるばかりです。
しばらくすると警察官が三人ほどやって来て、男を歩道の方へ連れてきました。「あんたたち、ちゃんと税金払っているんでしょ。あんたも、あんたも、それにあなたもさあ、ちゃんとおまわりさんだって税金払っているんでしょう」と男は警官に問いかけています。でも、警官に手を出そうとはしません。タクシー待ちの行列から何か声をかけた人がいた様子で、警官は行列に向かって「あおらないでくださいね」と一言、穏やかに注意。で、警官のうちの一人がそっと男のそばを離れました。近くのデパートの軒下から男の様子をしばらくうかがっていました。この警官がデパートの軒下にたたずんでいるうちに、あとの二人も少しずつ男から遠ざかって、暗い街の中に消えて行きました。あとに残った男は、まだ叫んでいます。 「彼もれっきとした第三秘書なんだ。ちゃんとした第三秘書だよ。解るでしょ。第三秘書だ」 そうひとりで大声を上げていました。
かなり酔っ払っているのですが、なんとなくその声の上げ方から、街頭演説の経験がありそうな気がしました。街頭で不特定多数の人を相手に声を出す時には、独特の声の張り上げ方があるのです。で、かなり酔っ払っていて、何か大声で言いたいことがあるのに、どこかで理性がちゃんと鍵を掛けていて、大事なことは言わないままでいるような、そんな管の巻き方でした。いったいどんな秘密があるのでしょう。なんだか気になる酔っ払いでした。
男がタクシー待ちのお客の行列に向かってしきりに叫んでいるうちに、ようやく私がタクシーに乗り込む順番が来ました。バックシートに座ってタクシーが走り出してから、煙草を吸うためにマッチを擦りました。 「お客さん、マッチをお使いなんですね」 運転手さんにそう言われました。 「マッチの匂いってなかなかいいものですね」 とも言われました。それから喫茶店でマッチをもらうことが出来た頃のことを話しました。
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