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中沢けいコラム「豆の葉」
   
 

熊汁一杯1200円

2006年09月09日(土)

 「熊汁一杯1200円。売り切れました」という張り紙を岩手の岩泉、龍泉洞の前の食堂で見つけました。龍泉洞を訪れたのは二度目です。最初は二十年ほど前でした。その頃は熊汁を売っていた食堂はなかったように記憶しています。

 20年前、花巻温泉のさらにおくにある台温泉に泊まりました。台温泉は坂道に並んだ温泉で、台温泉の入り口にあったコーヒー屋さんで「龍泉洞はすごいよ!」と聞いて、出かけていったのです。鍾乳洞の中をコバルトブルーの水がごうごうと流れていました。

 龍泉洞の中には地底湖があります。覗き込むと吸い込まれそうな地底湖で、その湖を結ぶ川が縦横に流れているのです。20年前に行った時よりも、洞内の木道が広がっていました。そのぶん、流れる水が見える部分が減っているのが、少し残念でした。その昔は木道もなくて川に小船を浮かべて、洞内を巡っていたそうです。

 熊汁の張り紙のあった食堂で雉のそばを食べました。鶏ではなくて雉の肉が入ったお蕎麦です。雉の肉は鶏肉よりも脂が少なく身がしまっていました。ここに熊の毛皮がありました。熊の毛に触ったのは初めてですが、人間の髪の毛の感触にそっくりでした。で、背中の毛は柔らかく、腕の毛は固いということをお店の人に教えてもらいました。確かに腕の毛はごわごわしているのです。人間でも頭の毛のほうが柔らかくて腕の毛は固い男の人がいますが、熊もそんな感じ。こんな剛毛の腕で抱きしめられたらたまんないなあって、ああ、恐い。

 龍泉洞までは盛岡からバスで行きました。途中で稔り始めた蕎麦の畑を見かけました。コスモスの花がたくさん咲いていました。熊の食堂(いや、そんな名前ではありませんが)の人に聞いたら、今年はお天気がおかしくてコスモスは早くに咲き出したそうです。梅雨が長かったので、畑の夏の作物が実らないうちに、コスモスが咲き出してしまったという話でした。

 盛岡で光源社によってきました。塗りのおわんが欲しかったのですが、それはまた今度にして、白磁の湯のみを買ってきました。轆轤引きで、地が優しく厚い湯のみです。しばらくはこれがお気に入りになりそうです。

 それにしても熊汁ってどんな味なのでしょうか?今年は天候がおかしかったので、また里にたくさんの熊が下りてきそうです。そろそろ、熊に襲われたとか、熊と格闘したなんてニュースが流れる季節になりました。

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