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中沢けいコラム「豆の葉」
   
 

消防自動車

2006年01月16日(月)

 暖国育ちの私はカマクラの中でお餅を焼いたり蝋燭を灯すことができるので不思議でなりませんでした。雪がむろのようになってしまうという点では雪中の火事もまた同じ理由で、ひとつの場所だけが燃え盛るのだそうです。

 以前、山形を旅行していたとき、周囲は新緑に包まれようとしているのに、そこだけ黒々とした冬が残っているような火事場の跡を見たことがあります。建ったまま真っ黒になっている柱や斜めに傾いた梁などの家の残骸でした。雪の中の火事は現代の消防自動車の威力を持ってしてもなかなか消しとめられないものだそうです。

 うちの近くの地下鉄の駅のそばに消防署があります。消防車は2台。1歳になるかならないかくらいお坊やがお母さんといっしょに消防自動車を一生懸命見ている姿をときどき見かけます。よほど消防自動車がすきなのでしょう。昨日、その消防車の前を通った時も坊やは消防自動車をお母さんと一緒に飽かず眺めていました。
 すると消防署の奥から、制服を着たおじさんが出てきました。歳格好から見て、消防署では少し偉い人のようです。
 おじさんは坊やに「消防自動車に乗せてあげよう」といいました。が、坊やは突然そう言われて、怖くなったのか、一歩、二歩とあとづさりして、しまいには背中をお母さんにぴったりくっつけてしまいました。
「じゃあ、お母さんと一緒だったら乗る?」
 そう改めて聞かれると、笑顔を満面に広げて「うん」とうなづきました。制服のおじさんは消防自動車の扉を開けて
「はい、お客様を二人ご案内」と言いました。
 坊やはお母さんに抱っこされてにこにこと消防自動車に乗り込みました。もしかすると、あの坊やは大きくなったら消防士になろうと決心したかもしれません。

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