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中沢けいコラム「豆の葉」
   
 

毒を仰ぐ

2011年02月09日(水)

 もろい夢でした。夢と現の間の敷居が低い夢でした。だから、目が覚めてしまうと、夢の感触を充分に再現することができません。おおまかな筋が残っているだけ。

 どんな筋かと言えば、錠剤の毒を飲む夢です。毎日飲んでいるふつうの薬のように、錠剤の毒を飲んで横たわっているのです。こう書くとなんだか神秘的な雰囲気も出てしまいますが、胃薬でも飲むように毒を飲んで横たわっていました。が、効き目がなかなか現れてきません。仕方がないので、効き目が出るまで、ボタン付けをすることにしました。針に糸を通して、糸の端に玉を作る。大きな玉が出来てしまい目立つほどですが、死んでしまえば、コートを使うこともないから、まあ、これでいいかと一人納得していました。
 死ぬ間際までボタン付けをしていたのを、後で誰かが見つけたら、さぞかし驚くだろうとか、そんなことを考えながらボタン付けをしていました。

 そのうちちょっと用事を思い出したのです。夢の中ですからどんな用意だったのかまでは覚えていません。あ、しまった。毒を飲むタイミングを間違っちゃった、どうしようかな? と迷っているうちに「これは夢ではないか」と疑りだしました。「どうも夢のようだ」と疑りが確信に変わる頃、ふっと「この夢は前にも1回見た」と気付いたのです。「これで2回目だ」と。ここもまだ夢の中。しきりに感心しながら夢から覚めました。

 同じ夢を繰り返し見る癖がこのごろはなくなったなあと思っていたところでした。どうも夢の素は、一昨年の心筋梗塞で病院へ運びこまれたときの体験のようです。すーっと意識がなくなって行くときの感触を再現していました。この夢はバリエーションを変えてまた見るような予感がします。

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