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中沢けいコラム「豆の葉」
   
 

家庭の秘密

2010年07月10日(土)

 今住んでいる家を買った時、記念に買った洋食器のセットがあります。和食器はいろんな食器を組み合わせて使いますけれども、洋食器は同じセットでそろえると立派に見えるという理由。もっとも、この食器セットは食器棚の中でややお邪魔な存在。お正月にしか使わないのです。が、ティーセットは例外。

 ポットとカップ、それに、シュガーポット、ミルク入れなどのセット。それからケーキ皿。これは時たま、使うことがあります。で、問題はそれが時たまだったこと。ある日、ポットの蓋を開けたら黴の匂いが。
 これは良く乾かさずに戸棚にしまったせいだと、良く洗ってから乾かしておきました。でも、黴の匂いは以前として消えません。ま、そのうち匂いも消えるだろうと楽観的予想で、何度か使用しました。
 ちなみに娘は紅茶を飲むなり、眉をしかめ、匂いには言及せず、紅茶そのものを無視。息子は「なんだか、この紅茶は古くない?」と疑問を呈しました。で、私はポットのせいだとは言わずに「古いかもね」と曖昧な返事をしました。

 なぜ黴の匂いが抜けないのか、深く追求することもなく、ポットを洗ってはよく乾かして戸棚に仕舞うを繰り返していて、ある日、漂白剤を使うことを思いつきました。茶渋はキッチンハイターを使うとよく落ちるのです。漂白剤を使ったら、黴臭さは抜けるかしらと、じばし漬け置きしておきました。
 ポットはみるみるうちに白くなります。が、なぜか、ポットの内側の注ぎ口の穴だけは黒っぽいまま。 
 それで楊枝で、ポットの内側から注ぎ口の穴を突っついてみたんです。どうしたわけが楊枝が穴の中に入ってきません。
 「ありゃ?」
 なにか詰まっているのかしら?とさらに突っついてみました。へたに力を入れると、穴そのものの周囲を割ってしまいかねないので、恐る恐る突っつくこと、しばし。黒っぽい汁が流れ出しました。
「小さなブラシがあったはずだ!」
 昨年の年末に小さなブラシのセットを買ったのです。試験管洗いの形のブラシが、ひとつのリングに極小、小、中、大、特大と5本そろっているブラシセットで、何かの役に立つかもしれないと買ったものでした。
 極小で、そっと穴を突っついてみると、またまた黒い汁が流れ出すのです。極小ブラシがさらに突っついていると、すぽっと、耳くそくらいの黒い塊が流れてきました。どうやら、注ぎ口の底の部分にたくさんの紅茶の屑が詰まっているらしいということが、理解できてきました。これが、どうやら黴臭さの本体だったようです。

 もう、それからは極小ブラシで、注ぎ口の複数の穴をひとつひとつ掃除して行きました。すると、出てくるわ出てくるわ、驚くに値するほどの黒い塊が流れ出してくるのです。極小ブラシを小のブラシに変えてもまだまだ黒い塊が、しかも、初期のやつよりも、やや大きめの断片が流れだしてくるのです。あきれるくらいにたくさんの紅茶葉の屑が詰まっていたのでした。
 これは絶対、息子にも娘にも言えない秘密です。我が家の重大な秘密です。もし、この秘密がばれたら、引越し記念のポットは御はらい箱にされてしまいます。

 でも、もう黴臭くはないんだから、そう言ってもきっと大ブーイングが巻き起こることは間違いありません。

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