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中沢けいコラム「豆の葉」
   
 

春は危ない

2008年04月15日(火)

 ここのところ、大阪、静岡と新幹線で移動していました。新幹線で走り、学校の廊下を走りの繰り返しでした。春は新入生の季節です。学校はまだ学内の建物の位置などがわかっていない新入生があふれていて、大混雑。走りたくても走れないこともありました。

 電車の駅でも真新しいスーツを着た新入社員らしい人をたくさん見かけます。新幹線の中にも、緊張した面持ちの人が幾人も乗っていました。それから、団体旅行の人々。こんなに団体旅行が多いのかしらと思うほど、昼前後の新幹線には団体旅行の人が大勢乗っていました。

 団体旅行の添乗員さんも新入社員。大阪駅でおろしたての制服を着た添乗員さんをみかけました。頬がふっくらとして、満面の笑みにはりきっている気持ちが滲み出していました。手にはこれまた新しい旅行社の旗。見ているだけで気持ちが良くなるような新米の添乗員さんでした。

 手にした旗をすっと掲げて、新幹線から降りてきたお客さんを集めます。集まってきた人々の先頭に立ち、背筋を伸ばして、歩く姿がどことなく誇らしげでした。新幹線ホームのスピーカーが切迫した声を放ったのは新米添乗員さんが旗を掲げて、下りのエスカレーターに乗った時でした。
「添乗員さん、添乗員さん、ホームでは旗を使わないで下さい。ホームでは旗を使わないで下さい」
 駅員の声はほんとうに切迫したものでした。が、新米添乗員さんは意気揚々と下りエスカレーターに運ばれてもう姿を消していました。駅員さんのあの切迫した声はぜんぜん彼女の耳に届いていませんでした。きっと彼女はコンコースで、あの満面の笑顔でお客さんの数を確認していることでしょう。

 たぶん、駅のホームで旗を振ると、列車の運転手が、安全確認のための旗を見間違える危険があるのでしょう。どうかすると大事故の原因にもなりかねないのはあの駅員の切迫した声が物語っていました。
 ああ、春は危ない。
 そうは思っても、駅員さんの切迫した声と、添乗員さんの誇らしげな笑みのコントラストには微笑を誘われました。ほんとうに春は危ない。

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