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中沢けいコラム「豆の葉」
   
 

トレンチコートの集団

2006年11月10日(金)

 制服以外はとくに服装の規定がなかった私の高校では秋口になると薄い蝉の羽のようなカーディガンを羽織るのが流行ってました。薄さを競うような感じで、みんな白いカーディガンを着ていました。そして冬になるとトレンチコート。

 カーディガンは女子だけですが、トレンチコートのほうは男子も着ていました。2年生の11月の修学旅行でも学生服の上にそれぞれが好みのトレンチコートを着て京都の街を歩いていました。夜の自由時間には新京極の通りでお土産を物色してもよいことになっていました。そういう学校は多いらしく、宵の口の新京極の通りには日本中から集まった中学生や高校生が犇いていました。どの学校も制服の上には何も着ていないのですが、私の学校の男子どもは、トレンチコートの肩をそびやかして歩いていました。そのうちのだんだんと、同じ学校どうしで固まりを作るような歩き方になって、トレンチコートの大集団になってしまいました。ちょっと威圧的でした。

 その威圧的な集団を「あれ、あんなに固まって歩いている」と見送ったら、そのあとから先生が追いかけてきました。ややあわてた調子で「うちの連中を見かけなかった?」と聞くので、新京極の通りが下る方向をさして「あっちへ行きましたよ」と教えたら、大急ぎで追いかけて行きました。あとで聞くと「あんなに目立つ格好でかたまってはどこかほかの学校とのこぜりあいになりかねない」と心配したのだそうです。実際、新京極のとおりでは、学校どうしがぶつかった乱闘になるなんていうブッソウなことも時々起きていました。

 私が灰色のトレンチコートを買ってもらったのは修学旅行の翌年のことでした。ただ安物で、生地がくたくただったので、あんまり気に入りませんでした。トレンチ特有の張りが足りないというのか、あの新京極の通りで先生を心配させたようなびしっとした感じがなかったのです。

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