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ハン・ガン「菜食主義者」(クオン刊)
2011年10月20日(木)
韓国文学感想文コンテストの締め切りが近づいてきました。課題図書はハン・ガン「菜食主義者」(クオン刊)です。
ある晩、血みどろの夢を見て以来、肉が食べられなくなるという女性の主人公。肉が食べられないという主人公を巡って家族の中に波紋が広がって行きます。 肉が食べられなくなるという発想はどこから生まれたのだろう?おもしろい発想をする作者だなあと、この本を読んだときから、気になっていました。で、思い出したのが孔子が悲しみのあまり肉を口にしなかったという話です。3日ほど肉を食べなかったという話があったはずだと、おぼろげな記憶。
韓国ではお葬式、それから結婚式も儒教式で行われることが多いようですから、特別に「論語」などを読んでいなくっても、孔子の様々な言動などは、きっと日常の会話などに出て来るのでしょう。そういうものが作者の発想の原点にあっても不思議ではないなあと思いました。私の記憶が曖昧だったので、孔子が肉を食べなかった話をググってみました。
出てきたのは弟子の子路が戦死して、遺骸を塩漬けにされたと聞いた孔子が、子路の死を惜しんで家じゅうのシシビシオ(肉の塩漬け)を捨てさせたという話でした。子路のことは中嶋敦も「弟子」という小説で描いています。勇猛果敢な子路は、孔子がもっとも愛した弟子で、その性格から「畳の上では死ねない」と孔子に予想させた男でした。
で、これをググる時に目についたのが、孔子が捨てさせたシシビシオを人肉だと曲解する言辞。食肉を塩漬けにして貯蔵するのは珍しいことではなく、いたるところで用いている方法です。それをわざわざ人肉とするのは悪意としか思えません。なんだかため息でした。
話がハン・ガン「菜食主義者」から離れてしまいましたが、この小説すごく現代的で、すきっりとした構成を持っています。野菜しか食べなくなった義妹に恋する男(主人公の姉の夫)はビデオアーティストなのですが、 裸体の義妹には欲情しないけれども、服を着ると欲情するという転倒にも微苦笑させらました。このアーティストが義妹の裸体に興味を持ったのは、義妹のお尻に蒙古斑が残っていると聞いたときから。そう、あのアジア人の赤ちゃんが持って生まれてくる特徴の蒙古斑です。こうしたディテールからも、この小説が、もともとの持っていて生活の中に溶け込んでいる儒教の思想を、現代的な感受性の表現として造形したものに思えてくるのです。
私は韓国文学感想文コンテストの審査委員をつとめてます。みなさんのすてきな感想をお待ちしてます。10月25日が締め切りです。
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